抜歯後に合併症の起こりやすい部位は、上よりも下、前よりも後ろです。つまり、下顎の親知らずを抜いた後は、一番合併症が起こりやすいといえます。
合併症のひとつとして痛みがあります。当院では、痛みを和らげるお薬として、抜歯後に毎食後服用する鎮痛剤のほか、頓服として鎮痛剤をお出ししています。痛みの程度は、頓服を1~2回の服用で自制可能なケースが多いです。
下顎の親知らずを抜くと、腫れが出ることがあります。大きく腫れることはまれですが、必ず腫れると思ってください。
頬の方向に強く腫れた場合は、開口障害(口が開きにくくなる)が発生します。開口障害は、開口訓練で腫れが引くとともに消退します。喉の方向に強く腫れた場合は、風邪をひいたときのように喉が痛み、食べ物が飲み込みにくくなります。ただし、これも炎症が引くとともに消退します。
厄介なのは、骨の中に強く炎症が波及したときです。下顎の親知らずの近くには下顎神経があり、炎症が下顎神経の近くに及ぶと、下唇を中心にオトガイ部に麻痺感が発生します。
麻痺は1週間ほどで消えることもありますが、半年から1年を要する場合もあります。
今まで1,000本ほどの下顎埋伏智歯を抜歯したなかで強い麻痺の症例は3例ほどで、単純に計算すると確率は0.3%です。この数字を多いと見るか少ないと見るかは考え方によります。
これらの合併症はすべて起こるわけではありません。ただし、下顎にある親知らずの抜歯は大変難しく、重篤な合併症になる場合があります。そのため、安易に抜歯をするべきではないと私は考えています。
しかし、症状が改善されない場合、抜歯を避けて通ることはできません。合併症のリスクについて十分に理解してしっかりと準備を行い、合併症が起こってもよい環境を用意してから処置を受けることをお勧めします。