話は少し変わりますが、40兆円と2.7兆円という金額、そして68,000という数字が何を意味するかご存じでしょうか。40兆円は日本の総医療費、2.7兆円は歯科の総医療費、68,000は日本における歯科医院の概数を表しています。日本における歯科医院の数はコンビニより多いといわれています。
2.7兆円を分け合っているのは個人の歯科医院だけではありません。12の国立大学歯学部病院、17の私立歯科大学病院(これらは歯科の総合病院で、他科と入院病棟も併設)、国立大学医学部に併設された約34施設の歯科、私立大学医学部の病院に併設された約12施設の歯科、その他に地方都市の中核病院に開設された歯科も含みます。
また、別の角度から歯科医院の経済状況を見ていきましょう。
保険請求点数が1件当たり平均1,200点前後、1軒の歯科医院の平均件数は180件(1日平均25~30人の受診)で1,200×180=216,000、1点10円なので216万円が歯科医院の保険診療の収入となります。
1軒で500~600件の請求を行う歯科医院もあれば、50件に満たない歯科医院もあるので、歯科医院1軒あたりの平均的な保険診療収入は200万円前後と考えられます。自費診療率が15%としても、歯科医院の収入は230万円前後でしょう。
一見余裕がありそうな数字ですが、歯科技工代や材料費、薬剤費、光熱費、テナント代、人件費、開業資金の返済、リース物件の支払い、雑費など、歯科医院の経営にはさまざまな経費がかかります。また、このくらいの収入が得られるのはうまく行ったとしても開業1年後くらいで、安定して患者さまが来ていただけるようになってからです。
現在は、200軒の歯科医院が新たに開院する一方で、160軒が閉院する時代です。歯科医院が生き残るためには、ひとりでも多くの患者さまを診察して多くの歯を治療し、1件当たりの点数を上げるしかありません。ですから、ひとりの患者さまにゆっくりと時間をかけ、ゆったりとした時間の中で上記を満たす丁寧な診察や治療をしていくことは、今の歯科医院には難しいのです。
一昔前の歯医者さんは、お金持ちでよい車に乗って休日にはゴルフ三昧、というイメージがあったかもしれません。今の歯医者さんは、休日も普通の車に乗って在宅診療に出かけて診療費を稼いでいます。休まずに働き続けなければ、いつ閉院する160軒の仲間入りをするかわからないからです。
全国では歯科大学の入学希望者が減少し、私立の歯科大学では定員割れを起こしているところもあります。高額な授業料が一因とも考えられますが、今の若い人は歯科医療の現実をよく理解し、歯科医療に明るい展望を描けないのかもしれません。
今は「歯科医師過剰」と言われています。しかし、このまま歯医者さんになる人が減ると、2世代3世代後には状況が逆転する可能性もあります。
極端に歯医者さんの収入を増やせとは言いません。しかし、たとえば歯科の総医療費が2倍の5.4兆円になれば、1日あたりの患者さまの数は半分で済みます。つまり、ひとりの患者さまに歯医者さんは倍の時間を提供することができます。そうすれば患者さまは安心して治療を受けることができ、歯医者さんは安心して治療を行うことができます。
「歯科の総医療費が増加すると、医科の総医療費が歯科の増加分以上に減少した」という調査結果も出ています。むし歯の予防や治療、歯周病の予防やコントロール、欠損補綴など、常に口腔の健康に努めることが全身の健康維持につながり、医科の総医療費が減少する結果となっています。たとえば、糖尿病と歯周病との関係は今や常識となっています。
医科歯科連携は、色々な分野で推進されようとしています。医科と歯科を分けるのではなく、医療関係者が一丸となって国民の健康を守る時代は、すぐ目の前に来ています。
国の資源財源は限りがあります。今こそ日本人の英知を結集し、国民が健康になるための対策を立てる必要があると考えます。