桜満開そして花吹雪の東京に行ってきました。
写真は桜満開の千鳥が淵です。
千鳥が淵は武道館で有名な北の丸公園と靖国神社に近接したお堀を望む都内でも有名な桜の観賞スポットです。
この千鳥が淵の桜には特別な思い出があります。
1991年3月、6年間の学生生活を終え、それから14年間、母校の日本歯科大学病院で口腔外科を学び、足掛け20年、思い出がいっぱい詰まった東京の生活にピリオドを打つ春の事でした。
その日は前日の雨が夜半過ぎから雪になり朝起きるとうっすらと雪景色となっていました。
桜の開花後の積雪は20年の東京生活で初めてのことであり、桜の花につもる雪、とても珍しい景色を見る事ができ、東京を離れる私にとってまさに「なごり雪」であったような気がします。
あれからさらに20年、東京で満開の桜を見るのはそれ以来の事でとても懐かしく思いました。
さて、わざわざ東京に桜を見に行ったわけでなく、横浜のみなとみらいで開かれた、まさに医療の未来を語る第12回日本再生医療学会総会に行ってきました。
以前より再生療法には興味を持ち、機会を見て種々の再生医療を題材とした学会や研修会に出席し色々と学んできましたが、iPS細胞がこの世に誕生してからその発展は目覚ましく、今回の発表も目を見張るものばかりでした。
特に私たち歯科の分野でも、ひと昔し前は、いかに失った歯、骨、軟組織の機能を移植により健全な状態に復元するか、との目的から色々と研究がおこなわれそれを臨床に応用をしてきました。
私の学位論文も骨移植に関するものでいかに自分以外の骨を安全に移植するかというものでした。
歯が無くなれば自分の歯を、なければ人工歯根(インプラント)を、骨が無くなれば自分の骨を、足りなければ他人の骨を、さらにそれでも足りなければ人以外の動物の骨を、そして軟組織の再建、例えば舌を失えば口腔に近接する場所に皮弁を起こし移植を行い、それでも尚足りなければ遠くから動静脈の血管柄付きの皮弁や筋皮弁を持ってきて、近くの動静脈と血管吻合を行い、舌を作り口腔の軟組織再建を行いました。
しかしこれはもう昔の話となりつつあります。
本当に近い将来、移植医療は無くなり、再生による再建が当たり前の様に行われる時が来ることを確信しました。
歯牙欠損に対し、インプラント埋入による歯牙の再建は、今現在、最良の方法と言えますが、近い将来、歯牙再生による欠損治療がルーチンとして行われる日はすぐそこまで来ているように思えました。
さて次は桜吹雪、開花後低い気温に恵まれてか1週間たっても桜はとても綺麗でした。
しかし所によってはそろそろ散り始め、吹雪とまでもいかないものの、風に舞う花びらを見る事が出来ました。
写真はJR飯田橋駅から市ヶ谷方面を望む景色で、外堀通り、外堀、JR中央線、そして外濠公園を見る事ができ、それぞれに桜並木があり、お濠の上をわたる風や、通過する電車の風に吹かれて花びらが舞い、盛りの春を満喫する事が出来ました。あれから1週間、今頃は散った花びらがお堀の水面を彩り、ピンク色に染めている頃と思います。 で、わざわざ桜吹雪を見に行ったわけでなく、飯田橋にある母校の日本歯科大学で開催された第22回有病者歯科医療学会総会に出席しました。
再生医療など優れた医療技術をもってしてもその医療を受ける患者様にいわゆる持病があり、歯科治療に困難をきたす場合があります。
この学会では高血圧、糖尿病、虚血性疾患など様々な疾患に罹患されている患者様を、いかに現病をコントロールしながら、安全にしかも効果的に歯科疾患を治療するかを考える学会で、これらは日々臨床に携わる私たちにとって、大変大切な課題と考えられます。
さて、ここで今回の学会のテーマでもあったBP製剤について少しお話をさせていただきます。
最近、「BP製剤と顎骨壊死」と言う言葉を耳にされた方があるかと思います。
BP製剤(ビスフォスフォネート製剤)を投与されている患者様が歯科治療、特に抜歯など外科的処置を受けた後、その部の顎骨が壊死を起こして腐骨となる事があると発表されました。
ビスフォスフォネート製剤(bisphosphonate;BP)とは、破骨細胞の活動を阻害し骨の吸収を防ぐ薬剤。えっ?何?・・・?
この薬を飲んで歯科で歯を抜くと顎骨壊死で骨が腐り、破骨細胞?怖そうな名前、それでいて骨の吸収を防ぐ有効な薬剤?いったい何なんや?。?が100個ぐらい並びそうですね。
少し考えて見ましょう。
骨も生きています(当たり前ですが)。いつも生まれ変わっています。代謝しているのです。
この現象にかかわっているのが骨芽細胞であり破骨細胞なのです。
卵が先か鶏が先か?じゃないですが、骨が破骨細胞の働きにより吸収されると一定の骨の量を保持しようと、骨芽細胞が無くなった分だけ骨を作る、人は生きている限りこれを繰り返しているのです。
しかし、このBP製剤が破骨細胞に取り込まれると、破骨細胞はアポトシ-シスに陥り自死(自殺)してしまい、このため骨の減少は遅くなります。
ですからこの薬を飲んでいる人とは骨の吸収が遅くなる事を期待する人で、骨粗鬆症、変形性骨炎、悪性腫瘍(乳癌など)の骨転移、多発性骨髄腫、その他骨のぜい弱となる疾患に罹患されている方となります。
ではこのように骨に有効なお薬がなぜ顎骨にのみ悪影響を与えるのでしょうか?
私たちはこの様な顎骨壊死の事をBRONJ(ブロンジェ)と呼んでいます。Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jawのそれぞれの頭文字を取ってBRONJと呼び、これを日本語に直すとビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死となります。
ではこの病気はどのようにして発生するのでしょうか?残念ながら実はまだよく分かっていません。
2003年BP製剤の静脈注射を行っている患者様に顎骨壊死が見られると発表があり、それ以来さまざまな研究がおこなわれましたが、まだ仮説でしかない状態です。
ではその仮説を説明いたします。
先にも述べましたが、BP製剤が投与されると当然全身の骨の破骨細胞に影響を与えるわけですが、どうして顎の骨だけに壊死が起こるのでしょうか?
それはどうも骨のリモデリング、すなわち骨の生まれ変わりのスピードが速い場所に起こりやすい事がわかってきました。
歯が植わっている場所を歯槽部と言い、その部の骨を歯槽骨と呼び、顎骨本体の上に位置しています。
そしてその歯槽骨の生まれ変わりのスピードはほかの骨の10倍とも言われるほど速やかに行われています。
もともとそのスピードに合わせ創傷の治癒がおこなわれていた場所が、薬の影響で骨の生まれ変わりが遅くなり、抜歯後などの創傷治癒が遅くなれば、創傷の細菌感染の機会も増し、ましてや口腔内は細菌がたくさん住む環境で、顎骨にBRONJが発生しやすくなるのも納得がいくと思われます。
BP製剤は確かに有用な薬剤と思われます。
特に悪性腫瘍の骨転移に苦しむ患者様にはなくてはならないものと思われますが、今や国民病の様に骨粗鬆症が言われ、そのためBP製剤を内服する高齢者が増加している現在、我々歯科医師にとっては非常にむつかしく、厄介な時代がやってくる事が予測されます。
歯科受診を希望される方で、もしそれらしいお薬を飲んでいるかもしれない方は、一度お薬手帳や薬の説明書を再度確認され、わからなければそのお薬を処方された医師と相談してください。
もしそれがBP製剤であれば必ずかかられた歯科医師にそれを申し出るようにしてください。
またもうすでに歯科に受診されている方は、早期に歯科医師にお伝えいただく事をお勧めいたします。
今回は明るい未来のお話し、そして少し怖いお話しをさせていただきました。
今回の話に限らず、良いとされている治療法は「両刃の剣」であることもあり、より良い医療を受けるためのコツは、医師とより良いコミュニケーションを取る事が大切であると感じました。