2月22日23日に行われた表題の教育研修会に行ってきました。
今回は顎口腔の再建と再生と題して
・顎口腔の軟部組織再建
・上下顎硬性再建の適応
・骨再生の基礎
・歯槽骨、顎骨および軟骨の再生
・口腔インプラントを用いた機能再建
・口腔インプラントの画像診断
・唾液腺の形成から再生機構の解明へ
・iPS細胞による再生医療の展望―人歯髄幹細胞の有用性についてー
以上8演題に加え今話題の
・骨粗鬆症の基礎から最新の治療まで
と題して 治療薬と顎骨壊死についての考え方について2日間の研修を受けてきました。

温故知新
「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」
最初の2演題は悪性腫瘍や外傷で顎口腔の舌、口唇など軟部組織や上下顎骨など硬組織を失った場合どのようにして再建を行うか、どのようにして再建を行ってきたかと言う内容で、初めは古典的な方法の皮弁による再建が紹介されました。
軟組織欠損部の比較的近い皮膚を使用する局所皮弁や遠位の軟組織を使い再建を行う有茎皮弁が紹介され、ずいぶん懐かしい写真を見る事が出来ました。

実際、私も有形皮弁移植は2~3例しか経験はなく、1991年に大学病院を退職するまで殆どがこれからお話しをする血管柄付き遊離皮弁移植でした。

血管柄付き遊離皮弁とは、皮弁を栄養する血管をつけたまま皮弁を採取する事により、より遠い所からでも皮弁による再建が可能で、再建時、顕微鏡下に動静脈の血管吻合と言う特殊な技術を必要としますが、軟組織欠損部の再建には大変有用な皮弁でした。

またこのテクニックを使い、その皮弁に同じ血管の栄養を受けている硬組織、すなわち骨を付けて同時に採取する事により、軟組織と同時に硬性再建が可能となり、再建は飛躍的に良い状態で行われるようになりました。

しかし、当時の再建を振り返ると、良い状態で再建が出来るようになったとは言え、そこに軟組織は存在するけれど、そこに骨は存在するけれど、その部位を失う前の状態とは程遠く、かろうじて顔面の形態を保ち、失った部位をただ満たしていると言う状態に過ぎず、そこに義歯を装着しても機能の回復には程遠い状態でありました。
それでも切りっ放しにする訳にも行かず、今でもそのような再建がおこなわれています。

近づく再生医療の足音
ただここ数年前より、再生と言う言葉を耳にする様になった頃よりその様相は変わりつつあります。
今、再生医療(Regenerative Medicine)が少しずつでは有りますが、私たちの分野にも光をもたらせ始めております。

再生とは?
生物学的には「損傷を受けた組織や器官、四肢などを復元する現象の事」となっており、よくトカゲのしっぽの現象を例に上げられますが、あれは再生ではなく、あくまでも再生とは見た目だけではなくその機能も併せ待たなくてはいけないとされています。
お話しは、再生医療の技術を駆使し、オーダーメイドの骨、軟組織を作製し、さらにそれらに機能を持たせる、と続いて行きます。

オーダーメイドの骨を作る
数年前まではそのような事は夢のような話で、人体で無くても済みそうな骨を探しそこから持ってきて、血管吻合など難しい技術を使い移植を行いそれだけでは足りない場合はさらにほかの場所から持ってくる。「作っているのか壊しているのかよく分からない」事をして一生懸命失った機能を再建しようと頑張ってきました。それしかなかったのです。

近年になって少し様子が変わってきたのは骨の再生を促す、骨再生誘導蛋白BMP2などに代表される種々の骨の成長因子を使用する事が可能となり、また新たに出来た骨をとどめるための足場となる代用骨などの開発が進み、より生体にやさしい骨の再生が可能となってきた事、さらに失った部分の形態を3次元的に解析し、3次元プリンターなどを使用して3次元人工骨を作製して、それをもとに骨の再生を促す、まさにオーダーメイドの骨を作製する事が可能になり、本来の形態に骨を再生させ、再建を行う事が出来るようになったため顔面の変形も少なく満足の行く結果を得る事が出来るようになってきました。

機能を持たせる
形態を回復しただけでは再生、再建した事にはならず、そこに機能を持たせて初めてその価値が発揮される所となります。
骨が出来たら次は口腔内に歯を作らなければなりません。
もちろん歯の再生に関してはかなり進んだところまで来ているようですが、再生歯でごはんが食べられる様になるにはもう少し待たなければ成らない様です。
そこで登場するのが口腔インプラントです。
ちまたではインプラントの悪い評判の方が先行し、本来の素晴らしさが分かって頂けなく残念に思いますが、歯の再生が出来るようになるまでは充分にその役割はインプラントが代行できると私は思っております。
すでにそのような研究を行っている機関では、オーダーメイドの骨にインプラントを埋入し、そこに人工歯を装着し充分に機能を発揮し、本当の意味での口腔機能の再生、再建がおこなわれている例もたくさん見られるようになりました。

さらにもう1歩未来へ
再建された口腔内に歯が生えた。これでもう十分に思えた再建もさらにもう1歩が必要でした。
口腔内には唾液の存在が必須条件で、唾液を分泌する唾液腺の再生が待たれる所です。
唾液腺の腺房の委縮、消失が原因のシェーグレン症候群、頭頚部癌の放射線治療による腺房細胞の消失による唾液の減少など、唾液を分泌する器官の消失によるドライな状態で、唾液分泌刺激薬の投与を行っても改善は見込めず、腺房細胞を含めた腺組織の再生が待たれております。

最後にiPS細胞のお話しを少し
現在再生医療の研究の中で、すでに形成されている組織中存在し限定的な分化能と増殖能を持つ「組織幹細胞」の応用が期待されています。
口腔領域でも歯髄に「組織幹細胞」であるヒト歯髄幹細胞が含まれている事が証明され、優良な医療資源として期待されています。
遠い存在であったiPS細胞による再生医療、歯髄幹細胞が有望なiPS細胞の供給源となれば私たち歯科医師にとっても再生医療が身近に感じられる時代が来るかもしれません。
親知らずの抜歯や乳歯の抜歯は我々にとって日常的な事で、健康で新鮮な歯髄が我々の周りに溢れており、有望な歯髄幹細胞の供給源となりえるからです。
以上が「顎口腔の再建と再生」についてのお話しでした。

ちょっと小耳にはさんだ驚きのお話し
同時に行われた「骨粗鬆症の基礎から最新の治療まで」の講演の中で、お年寄りの大腿骨近位骨折(骨頭骨折)は全国で年間約40000件発生しており、その約半数が1年以内に認知症を発症し、さらに発症後その半数が1年以内に亡くなられているという報告がされました。
ほんの些細な事で骨折を起こし、体の自由を奪われ寝たきりになれば、そのストレスから痴ほう症が発症し、死に至る。
嘘のようなお話ですが、それが現実だそうです。
そのため骨粗鬆症の改善が急務であり、治療薬の投与により骨折の罹患率が低下したとの事でした。
骨粗鬆症の改善薬は我々歯科医師の取っては投与患者の取り扱いに大変苦慮しており、BRONJ(ビスフォスフォネート製剤、すなわち骨粗鬆症改善薬による顎骨壊死)の発生に関して大変危惧するもので、投与基準の見直しも必要と思われますが、骨粗鬆症の裏側に見え隠れする高齢者の骨折は大変深刻な問題で、今後の成り行きが注目されるお話しでした。

寺辺歯科医院