~その1~
6月21日22日仙台で行われた日本顎顔面補綴学会に参加してきました。

今回の学会出席の目的は、もちろんたくさんの興味ある一般演題を聞く事もありましたが、一つは特別講演で、スイスのベルン大学、頭蓋顎顔面外科教授、飯塚建行先生の「最近のヨーロッパにおける顎顔面再建の主流と、ヨーロッパにおけるBRONJの発生とビスホスホネート製剤投与患者の取り扱い」についてのお話が聞ける事、またシンポジウムでは「顎顔面領域の再建への3-Dの応用」と題して本邦の著名な先生方のお話しと、さきほどの飯塚先生のヨーロッパの現状を合わせてシンポジウムが行われると言う事で、とても楽しみに仙台まで行ってきました。

まず、顎顔面の再建において硬組織再建の材料、すなわち骨は何処から持ってくるの?と言うお話でしたが、現在ヨーロッパでは腓骨(ひこつ)が主流との事でした。
腓骨って何処の骨かご存知ですか?
余談になりますが今から40年前、私が解剖学を習った時、「親からもらった時計(と けい)」と覚えたのを思い出しました。
どういう事かと言いますと、「親指に近い骨が橈骨(とうこつ)と脛骨(けいこつ)である」と覚えたものでした。
すなわち手の橈骨には尺骨(しゃっこつ),足の脛骨には腓骨があるわけで、腓骨は足の骨が正解でした。

もう一つ、ついでに顎顔面の再建って理解できますか?
なんとなく漢字をそのまま読めば「顎と顔を再び建て直す」で、「ああそうか」って感じですがよく考えると「ええっ!」「顎と顔をもう一度作り直す」「何それ!」ですよね。
そうです、人は古くから体のある部分を失うと人工物を作りその機能を回復させようと努力してきました。
手足を失えば義手義足、歯を失えば義歯であるように。
でもこれらは血の通わない人工物であるがゆえに、その機能の回復には限りがありました。
そこで考えられたのが、生体の一部を使用した機能回復、すなわち骨が無くなればどこかから生きた骨を持ってきて行う硬組織再建、皮膚など軟組織を失えば軟組織再建、またそれらを同時に行う硬軟組織再建、顎顔面の腫瘍や外傷により失った機能を人工物ではなく生きた組織でその部分を再建し、審美的にしかも発音、摂食、咀嚼、嚥下、の機能を回復するのが顎顔面の再建です。

で、話しは元に戻りますが、腓骨を使った再建、足の骨取ってしまって大丈夫なの?とても素朴な疑問です。
私も20年ほど前、初めて腓骨を使った再建の英論文を読み、「本当に大丈夫なの?」でした。
私が現役で再建を行っていた頃は、ほとんどが腸骨で肩甲骨も使用した経験はありますが、その頃まだだれも見向きもしない移植材料でした。
今回、演者の飯塚先生の発表では、腓骨は顎骨の形態の再現に使いやすいばかりではなく、その後移植された骨にインプラント治療を行う際、とても適した骨であると言う事が強調されていたように感じました。
すなわち頑張って骨を移植し顎の再建には成功したけれど、義歯等がうまく装着できず、その機能を果たさない。
移植骨にインプラントを埋入し、その新しい顎骨に機能を持たせて初めて再建の意味はあると言うのが、今回の講演の結論であったように思いました。

続いて骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤の話に移りました。
まず、飯塚先生がなぜ骨粗鬆症治療薬のビスホスホ製剤による顎骨壊死BRONJの研究に着手したかの話がありました。
そのわけはビスホスホネート製剤を創製したのがスイスのノバルティ社で、スイスにある大学の顎骨を触ることの多い顎顔面外科を専攻している者にとっては見捨てておく事が出来ないと言う考えから研究を始めたと言う事でした。
そう言えば今気がついたのですが、最近ノバルティファーマって最近高血圧治療薬云々でよく耳にしましたが、同じ会社ですかね~? 余談でした。
BRONJの発生機序につきましては、以前記載させていただきましたので参考にしてください。

さて、今私たちを悩ましているのは、ビスホスホネート製剤を使用しているが、BRONJは発症していない、すなわち顎骨に今何ら症状が無い方々で、逆に言うと今後の外科的処置でBRONJを発症する可能性のある方々をどのように取り扱うか、であります。
すなわち、外科的処置を行うか、行わないかで、歯牙の抜歯の様にその歯牙の状態から抜歯がどうしても必要な状態であればその診断も比較的悩まなくてもよいかもしれません。
しかし、インプラント処置の様にわざわざインプラントにしなくても義歯があり、無理にインプラントにしなくても良い場合などは本当に悩みます。

ほんの2~3年前まではビスホスホネートを内服で投与されている方は、3ヶ月休薬して抜歯を行い抜歯後2~3ヶ月待って投与を再開するのが望ましい、そして点滴で静脈内に投与されている方はなるべく外科的処置は行わないのが望ましい、と言う事でした。
しかしビスホスホネートは投与目的が骨粗鬆症の患者様だけではなく、ビスホスホネートには癌の骨転移の抑制やすでに骨に転移している癌の痛みを緩和したり、進行を遅らせる効果があり、6ヶ月も休薬することのできない患者様も有り、私も患者様の同意を得て無理を承知でこれまで数例の抜歯を行いました。
結果は、幸いにも1例もBRONJを発症した方はなく、ほっとしている所です。

そして、2年ほど前よりは、休薬してもビスホスホネートは体内に残存し、休薬の効果があまり期待できない事、またBRONJの発症が当初予想されたよりたより少ないことなどから、現在では休薬はせず外科的処置を行った後は、抗生剤等を投与し感染予防に留意し、慎重に経過観察を行っていく事、に変わりました。
飯塚教授も最近の研究結果から、抜歯処置は言うに及ばずインプラント処置を実際行っておられ、以前にBRONJ発症が無い事、抜歯処置後に異常所見が無い事、抜歯を行った場所がレントゲン写真で正常に骨が回復しているなどの条件を満たせば、インプラント処置も行って問題ないと結論付けておられました。
この講演を聞いて、ビスホスホネート製剤を使用されている患者様に少し明るい未来が見えたような気がしました。
~その1~はこれぐらいにして「顎顔面領域の再建への3-Dの応用」は~その2~でお知らせします。

寺辺歯科医院